東京地方裁判所 昭和51年(ワ)9116号 判決
一 原告が本件実用新案権の実用新案権者であること及び本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二1 成立に争いのない甲第二号証中の本件公報と前項に確定した本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、本件考案は、次の構成要件からなるものと認められる。
A 垂直軸杆の摘みに依り開閉機構を開閉すべくなしたるソケツトであること。
B 開閉機構を収容する外体をフエノール系樹脂にて成形してあること。
C 電球承口金具と舌片を収容する外体を磁器にて形成してあること。
D この外体の底面には円形の凸条と受座を凸設してあること。
E 開閉機構の収容外体と磁器製外体を接合し螺子杆に依り開閉機構と電球承口金具及び舌片を電路を兼ねて接続して締着してあること。
2 被告が昭和四九年一一月ころから、ソケツトを製造し、販売していることは当事者間に争いがない。
原告は、右ソケツトは別紙(〔編註〕省略)目録記載のとおりのものであると主張するのに対し、被告は、右目録中「2、技術的構成の説明」のうちの「この磁器製外体5aの底面には第4図に示す如く皿状の凹部6aを形成し」との記載部分及び第2第4図における図示中右記載部分に対応して磁器製外体5aの底面に皿状の凹部が形成されている点を否認する。ところで、仮に、被告の製造販売するソケツトが別紙目録記載のとおりのものであるとしても、同目録記載のものすなわち被告物件は、その磁器製外体の底面には円形の凸条と受座がないことは本件口頭弁論の全趣旨から明らかであるから、被告物件は本件考案の前記構成要件Dを欠くものである。なお、被告の製造するソケツトであることについて当事者間に争いのない検甲第一号証及び検乙第一号証によるも、同ソケツトには磁器製外体の底面に円形の凸条と受座がないことは明らかである。
3 ところで原告は、右の構成要件Dすなわち、「この外体の底面には円形の凸条と受座を凸設してあること。」というのは、本件考案の技術上の眼目である磁器製外体5とフエノール系樹脂製外体3との間に、右外体5側の熱が右外体3側に伝わるのを防止する断熱機構としての間隙部を設けることを表現したものであること、換言すれば両外体の間に断熱機構としての間隙部が形成されるべきであるという技術的要請を述べたものであるから、右両外体との接合部に断熱効果をもたらす間隙部が形成される構成のものであれば、その構成についての表現に限定はない旨主張する。
しかしながら、前顕甲第二号証中の本件公報の記載によれば、考案の詳細な説明の欄に「又此の外体5は底面に受座6´付円形の凸条6を凸設した為めに開閉機構2の外体3と接合する場合に此の凸条6に依り間隙が生ずる為めに加熱された磁器外体5の熱は此の間隙部に依りフエノール系樹脂製外体3に対する伝熱が遮断せられる働きをするものであるから開閉機構2の外体3は樹脂製であつても安全に使用し得る利益を有するものである。」(本件実用新案公報1頁右欄8行ないし15行)、「…………此の外体5の底面すなわち開閉機構2の外体3と接合する部分に適宜凸条6を凸設して接合した場合に間隙を生じて伝熱を遮断する様にした事が考案の要素であり…………」(本件実用新案公報1頁右欄23行ないし27行)と記載されていることが認められ、右記載によれば、本件考案の構成要件Dは、磁器製外体の熱がフエノール系樹脂製外体に伝熱することを遮断する働きすなわち断熱効果を奏する手段であり、しかも断熱効果を得るための必須の構成要件であると解すべきものであり、本件明細書を仔細に検討するも右の構成要件D以外に前記の断熱効果を奏するための構成についての記載がなく、それを示唆する記載もない。
してみると、本件考案の構成要件Dは、まさに、「外体の底面に円形の凸条と受座を凸設する」という点にあり、両外体の接合部に何らかの理由により間隙部が形成され、この間隙部が断熱効果をもたらすものである他の構成のものをも含むと解することはできない。故に原告の右主張は採用することができない。
また原告は、本件明細書の「凸条」の文言につき、凸と表現するか凹と表現するかは全く主観的な表現方法の違いにすぎないから、本件明細書の作成の際に磁器製外体の底面に凹部を形成すると表現しても何らの違いも生じない旨主張する。
しかし本件明細書には、前記記載から明らかなように、単に磁器製外体の底面に凸条を設けると表現されているのではなく、円形のしかも受座付の凸条を設けると表現されているのであるから、これと磁器製外体の底画に凹部を形成するという表現を同一に論ずることはできないものというべきである。
よつてこの点に関する原告の主張もまた理由がない。
4 以上のとおり、被告物件は本件考案の構成要件Dを欠く点においてすでに本件考案の技術的範囲に属しないものといわざるをえない。
三 してみると、被告物件が被告の製造販売にかかるソケツトであるかどうかの確定をまつまでもなく原告の本訴各請求は、いずれも理由がないから、これを棄却する。